※PR
針を刺してしまった瞬間、多くの人がまず考えるのは自分の身体のことではありません。
「言ったら怒られる」「忙しいのに迷惑をかける」
そして、そのまま何も言わずに帰ってしまう。これが最も危険な選択です。
この記事では、針刺し事故が起きたときに何をすべきかを、仕組みから説明します。なぜ急ぐ必要があるのかが分かれば、報告をためらう理由がなくなります。
あわせてお伝えしておきます。これは一般的な情報であり、個別の対応を指示するものではありません。 職場には必ず手順書があります。実際の対応は、それと担当者の指示に従ってください。
いちばん大事なことを先に書きます
黙って帰らないでください。
この記事で伝えたいことは、突き詰めるとこれだけです。
理由は単純で、対応の効果が時間で決まるからです。 何日か経ってから相談しても、選べる手段が減っています。
報告は、あなたが責められるための手続きではありません。あなたを守るための手続きです。
その場ですること
刺した直後にやることは、それほど多くありません。
- 流水で洗う
- すぐに報告する(上司、感染対策の担当者、当直の責任者)
- 状況を記録する
記録しておく内容は、次のとおりです。
- 日付と時刻
- どの患者さんに使った器材か
- 器材の種類(注射針、留置針、縫合針、メス)
- 刺した部位と深さの程度
- 手袋をしていたか
- その場に誰がいたか
記憶は驚くほど早く曖昧になります。 落ち着いてからでは思い出せません。スマートフォンのメモで構わないので、その日のうちに残してください。
傷口をどう扱うか、消毒をどうするかは、施設の手順書で決められています。自己判断より、手順書と担当者の指示を優先してください。
なぜ時間が勝負なのか
ここが、この記事でいちばん知ってほしい部分です。
針刺しで問題になる主な感染症は3つあります。B型肝炎、C型肝炎、HIVです。
このうちB型肝炎とHIVには、曝露のあとに感染を防ぐための対応があります。 そして、その効果は時間とともに落ちていきます。
特にHIVについては、可能な限り速やかに開始することが望ましいとされています。数時間を争う話で、「明日の朝に相談しよう」では遅くなる場合があります。
だから黙って帰ってはいけないのです。 怒られるかどうかより、この時間のほうが大切です。
実際にどの対応を取るかは、患者さんの感染状況、あなたの抗体の状態、傷の深さによって変わります。これは担当医が判断することで、あなたが1人で決めることではありません。
B型肝炎はワクチンで防げます
3つのうち、B型肝炎だけは事前に防ぐ手段があります。
質問です。ご自身のHBs抗体の値を、把握していますか。
接種は受けたけれど値は知らない、という方が非常に多いです。ワクチンを打っても抗体が十分につかない人は一定数います。接種歴があることと、守られていることは別です。
次の健診で確認してください。抗体が足りなければ、追加の接種を検討できます。
これは、事故が起きる前にしかできない準備です。
これは労災です
ここも知られていません。
業務中の針刺し事故は、労働災害の対象になります。 検査、予防のための処置、その後の経過観察にかかる費用は、自己負担で抱え込むものではありません。
「これくらいで労災は大げさ」と感じる方がいますが、そういう制度です。報告して記録が残っていることが、そのまま手続きの土台になります。
逆に言えば、黙って帰ると、後から証明できません。 数か月後に何かあったとき、業務中の出来事だったと示す材料が残らないのです。
そのあと何が続くか
1回で終わりではありません。一定の期間、血液検査で経過を追います。
この待つ期間が、精神的にはいちばんこたえます。結果が出るまで不安が続くのは、当然のことです。
1人で抱えないでください。産業医、職場の相談窓口、感染対策の担当者。不安を話していい相手がいます。
報告しにくい空気について
ここは、はっきり書きます。
報告しにくい職場があること自体が、その職場の問題です。 あなたの落ち度ではありません。
針刺し事故は、注意していても起こります。急変時、不穏な患者さんの対応中、リキャップせざるを得ない状況。個人の注意力だけで防ぎきれるものではありません。
だからこそ、報告しやすい仕組みが必要とされています。報告が集まらない職場は、事故が少ないのではなく、見えていないだけです。
報告して責められた。相談したのに取り合ってもらえなかった。それが続く職場なら、それは働き方を見直す理由になります。
職場を変える選択肢は、病院以外で働く看護師の職場9つにまとめています。
今日できる準備
事故が起きてから調べるのでは遅いので、先に確認しておいてください。
- 職場の針刺し事故の手順書はどこにあるか
- 夜間と休日は、誰に連絡するか
- 自分のHBs抗体の値はいくつか
2番目が抜けている方が多いです。 日中の連絡先は分かっていても、夜間の窓口を知らない。事故は夜勤帯にも起こります。
検査がいつまで続くのか、いつ終わるのかは、別の記事に書きました。
報告そのものに気が進まないときは、こちらもどうぞ。
まとめ
針刺し事故で最も危険なのは、感染そのものより報告しないことです。
流水で洗い、すぐ報告し、状況を記録する。急ぐ理由は、曝露後の対応が時間で効果を落とすからです。これは労災の対象で、費用を自分で抱えるものではありません。
そして事故が起きる前に、自分のHBs抗体の値と、夜間の連絡先を確認しておいてください。
報告は、迷惑をかける行為ではありません。あなたを守る手続きです。


コメント